AAR/フレイヤの末裔/盟主カルル(完結編)
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[[AAR/フレイヤの末裔]]
[[AAR/フレイヤの末裔/カルル帝(後編)]]
**幕間「天才」 [#wd5eb1c0]
'''私は特にチェスが好みだが'''
'''九つの特技を身に付けている'''
'''私に解らぬルーン文字は殆どなく'''
'''読書と工芸もよく行い'''
'''スキーの滑り方も知っている'''
'''射撃と航海の術にも長け'''
'''詩作とハープの演奏も心得ている'''
'''――『オークニー諸島人のサガ』のうち『男の特技』。'''
&ref(Inga.png);「猊下、失礼致します」
&ref(Astrid.png);「失礼いたします」
書斎の静寂に、二つの声が響く。一つは若い女のもの、もう...
ルーン文字の資料を改めていたカルルはその二人……インガと...
&ref(Karl.png);「おお、お前達か。熱心だな」
&ref(Inga.png);「猊下ほどでは御座いません。石碑の建立も大...
カルルの書斎には全欧州から集められた知識が整理・収蔵さ...
インガは聳え立つ書架の幾つかに帯出物を返納しながら、次...
&ref(Karl.png);「そうもいかんよ。わしに残されている時間は...
&ref(Karl.png);「特に石碑については、もう腕の良い職人も随...
&ref(Inga.png);「寿命の心配をなさるなら余計に無茶をなさら...
&ref(Karl.png);「ああ、トステに誘われてな。何でも攫って来...
カルルは手綱を握る様なジェスチャーをして身体を上下に揺...
&ref(Karl.png);「しかし南方の馬はやはりすごいな、背も高い...
&ref(Karl.png);「そして何より良く跳ねる。時々宙を舞う様に...
インガは溜息を吐きながら「そう仰るなら」と諦め顔だ。
すると、インガの抜き出した本を眺めていたアストリドが、...
&ref(Astrid.png);「&ruby(ハイル){陛下};……」
&ref(Inga.png);「&ruby(ヘリグ){猊下};、よ、アストリド。無...
&ref(Astrid.png);「……ごめんなさい。&ruby(ヘリグ・フィルキ...
&ref(Karl.png);「何かね?」
インガに訂正を促され、たどたどしくも従うアストリドを微...
アストリドは壁を為す膨大な蔵書を眺め、訊ねる。
&ref(Astrid.png);「ここのご本は、全て盟主猊下の読まれたも...
インガが苦笑を深める。幼さ故か、或いは"豪胆王"と呼ばれ...
&ref(Inga.png);「猊下、申し訳ありません。私の教育が……」
&ref(Karl.png);「良い良い。盟主座の歴史も丁度10年、言うな...
謝罪するインガを制止して、カルルはアストリドの質問に答...
&ref(Karl.png);「その通りだよ。40年程かかったし、ここ数年...
&ref(Astrid.png);「すごい! それほどの勉強家だから&ruby(...
カルルは目を細めて肯く。その通り、その通りに違いなかっ...
あの聡明な妻に相応しい男になる為に、愛した女の名誉を自...
勿論、カルルの中にも民を思う心があって、それも強い動機...
その恋が、戴冠の時には「実質の王配」と嘲られたカルルを...
&ref(Astrid.png);「わたしもいっぱい勉強をして、立派にホル...
&ref(Karl.png);「ああ、きっとそうなるだろう。何と言っても...
そう言うと、アストリドもどこか誇らしげだ。インガの教育...
&ref(Inga.png);「アストリド、余り御邪魔をしないのよ。猊下...
インガは資料を選び終えたらしく、アストリドに退室を促す...
&ref(Inga.png);「御邪魔致しました、猊下。改めて、御自愛な...
&ref(Astrid.png);「お邪魔いたしました、猊下」
&ref(Karl.png);「ここはお前達に解放されている。必要なもの...
退去する二人を見ながら、カルルはふと、時の流れを思う。
&ref(Karl.png);(……40年か。滑稽なほど長い……)
欧州中から蒐集される文書の理解と整理。40年、覇業の傍ら...
その営為の積み重ねが有って、スカンディアは帝国として統...
反動を起こす者達は今もあるが、カルルの存在がノルド世界...
しかし、カルルは自らの非才を笑わずにはいられなかった。
&ref(Karl.png);(俺と、フレイの存在は……きっとお前の誕生の...
カルルは膨大な未整理の資料が並べられた書架の前に立つ。...
それは、欧州中から集められた膨大な資料の翻訳物。或いは...
それらを見る度に、カルルは思い知らずにはいられない。
何れも同じ筆跡で書かれた、無数の文書が、スカンディアに...
&ref(Karl.png);(インガよ……)
フローニのインガ。
インガ・フレイドティール。
スカンジナヴィア帝国第一継承候補者・フレイの次女、イン...
&ruby(インガ){フレイヤの化身};。
&ref(Karl.png);(俺とフレイは、必ずお前を帝位に就かせてみ...
&ref(Karl.png);(たとえ、どんな手段を用いても、誰に恨まれ...
*盟主カルル(完結編)6.19.969~ [#x90fe7b0]
**名君への道 [#q3354834]
&ref(ルーン建立.png);
カルルが自ら碑文を指示したアンラウフ王のルーン石碑。
カルルは、父・アンラウフが手中に収めた領土に胡坐をかい...
彼はその地位に相応しい人物であろうと、「リンダの口付け...
&ref(27歳.png); &ref(57歳.png);
「フローニ家のサガ」によれば、戴冠当時のカルルは短気な...
しかし、盟主カルルに送られた無数の賞賛は、彼をルーンの...
カルルの物語は覇業だけでなく、その能力を伸ばし続ける努...
&ref(訓練①.png); &ref(訓練②.png); &ref(訓練③.png);
ある時は戦士達に混ざって武力を磨き、またある時は戦術の...
&ref(訓練④.png); &ref(訓練⑤.png);
果ては鳥の飛ぶ姿をヒントに「海だけでなく空をも征服でき...
謎めいた賢者に与えられた「秘密の書物」の解読の為に数週...
&ref(訓練⑥.png);
そのうちのどれ程が実話なのかは解らないが、盟主の座に就...
ヴァイキングは&ruby(ヤルル){族長};に「九つの能力」を求...
カルルが&ruby(フィルキル){盟主};としての崇敬を受けたの...
**ノルド世界の「中世化」。 [#z100c917]
本稿の読者には改めて言うまでもない事とは承知だが、10世...
崩壊した西ローマの領域を得たゲルマン人達が、キリスト教...
&ref(王権強化.png);
盟主座の制定と共に提案された帝国体制は帝権の大幅な強化...
つまり、キリスト教世界と同様の、しかしフィルキリズムに...
&ref(ヴァーンの乱.png);
これに対しては国内のキリスト教徒よりも、「反盟主座」の...
長期に亘る統治、帝国化の完遂、そしてガヌエンタの発掘と...
970年に起こった「ヴァーンの乱」はそうして起こった宗教的...
&ref(Vagn.png);「&ruby(ケーザリ){皇帝};、フローニのカルル...
&ref(Vagn.png);「人である限り如何なる人も神意を騙るは赦さ...
&ref(Vagn.png);「仮にフローニが半神の系譜であろうとあって...
&ref(Karl.png);「考えるのだ、賢きヴァーン。我が氏族の祖・...
&ref(Karl.png);「ただ神々を見上げるだけの時代は、我が盟約...
&ref(Karl.png);「我はノルドの迎える長き冬を終わらせよう。...
&ref(Vagn.png);「まやかすな! 祖父は我らに言い伝えたぞ、...
&ref(Karl.png);「……ヴァーンよ、では、お前の人々を勇敢に戦...
この乱は数ヶ月の内に鎮圧され、捕えられたヴァーンは後に...
加えて、同時期にスウェーデンのアスビョルン王がカルルの...
&ref(アスビョルン暗殺.png);
これによってシグルド2世が再びスウェーデン王冠を継承した。
&ref(シグルド2世.png);
高齢ではあるが、嘗ても名君として知られたシグルド2世は、...
以降、シグルドはフローニ本家と積極的な交流を行い、スウ...
カルルは犠牲祭でヴァーンやアスビョルンといった叛逆者の...
これが抑止力となったのか、カルル存命の内に起こった「反...
&ref(王権強化完了.png);
そして972年の11月、ついに帝国内の族長の過半数が新帝国法...
こうして、ノルド世界の「中世化」が始まったのである。
**賢きヴァニル、インガ。 [#z32523f9]
974年、3月。帝国内安定に注力し、兵力を温存していたカル...
&ref(トティルの要請.png);
カルルの義弟・トティルの援軍要請であった。「第二次・大...
しかし……
&ref(Karl.png);「我が義弟、大鴉旗の継承者、ヨルヴィクの残...
&ref(Karl.png);「だが、汝はそれに報いたか。我が戦士達の流...
&ref(Karl.png);「ヴィットセルクのトティルよ、我は『全ての...
カルルは、今度は一兵たりと援軍を出さなかったのである。
この返信を、トティルは大笑で受け取ったという。
&ref(Totil.png);「我が義兄にして盟主なる"鉄心の"カルルよ...
&ref(Totil.png);「確かに兵は出せまい! スカンディアのあ...
&ref(Totil.png);「その少女に全てを与えたいのだろう!? ...
カルルには兵を動かさない理由があった。
&ref(インガ.png);
皇太子フレイの次女であり、「ステンボックのリンダ、スヴ...
この頃、フレイには三人の娘がおり(長女は前稿で登場した...
彼女は伝説によれば成人までにノルド語、英語、フランク語...
カルルとフレイは、彼女を玉座に就かせるべく、新たな相続...
それは当然、帝国内に戦争状態の氏族が残っていては達成で...
&ref(Totil.png);「楽ではないなあ、&ruby(ヘリグ・フィルキ...
&ref(Totil.png);「だが言っておくぞ義兄殿! 貴方はまだキ...
&ref(Totil.png);「このブリタニエで何が起ころうとしている...
その1年後、975年の4月にトティルはケントを喪失。
そして同年の5月末……
&ref(選挙制.png);
大族長達による選挙制相続法を成立させたのである。
この相続法は「優れたノルドによる支配」を理念とし、皇子...
カルルは自分の持つ全王号と盟主座の継承候補者に長男・フ...
しかし、フローニ氏族内ではこれを「氏族を畏れぬ悪法」と...
カルルは偉大な皇帝であり盟主ではあったかも知れないが、...
**幼きリューリクの末裔 [#ydb7aba6]
新相続法の制定から暫く、カルルはトステ率いる略奪部隊を...
スウェーデンの再統一はカルルとシグルド2世の親密さから再...
そこで、カルルが次に目を付けたのが、スラヴ化したホルム...
&ref(ホルムガルド.png);
カルルの伯母・リンダの夫は、嘗てロシア最強を誇った&ruby...
977年1月上旬、カルルはその請求権を行使したのである。
&ref(プスコフの戦い.png); &ref(ルーガの戦い.png);
カルルは東方に常備軍4000名のみを差し向けた。ロシア奥地...
そして980年11月中旬、ホルムガルドは降伏を宣言。
&ref(ホルムガルド降伏.png);
カルルはその名義人……つまり、ホルムガルド大族長である人...
&ref(アストリド.png);
ニュガルドの玉座についていたのは、僅か8歳の少女だったの...
カルルが宣戦を布告した彼女の父・ステュルカルは終戦間近...
使者の弁では、アストリドは少女でありながら族長として強...
&ref(Karl.png);「エーシルとヴァニルから離れるとも、幼きリ...
カルルはアストリドをユランに呼び寄せ、インガにノルドと...
ホルムガルドの大族長位はカルルが預かり、彼女の成人と共...
**大きすぎる釣り針 [#ofb070ab]
ホルムガルドを獲得したカルルは、東方に送った部隊をその...
そんな折に、ブリテン島のトティルから再びの援軍要請があ...
&ref(オスムンド.png); &ref(イングランドの成立.png);
マーシアの寛大公・ブルグレッドの子孫であるオスムンド2世...
しかも、イングランド王・オスムンド2世と、アルバ王・カイ...
所で、この「イングランド」という国名は、デーン人……とい...
イングランドの民族がアングロ・サクソン人である事、そし...
&ref(アンゲルン.png);
ユラン半島から緩やかにバルト海に突き出た小半島、「&ruby...
実際にはそのアンゲルンに棲んでいたアングル人だけでなく...
&ref(Totil.png);「言っただろう? 手遅れになっても知らね...
トティル王にはこれが愉快でならず、ホーセンスに送った使...
この挑発に乗らないノルド人など、この時代には考えられな...
981年4月、ウラジミールとモスクワの獲得に成功したカルル...
&ref(エリーの戦い.png);
982年4月、サフォークに上陸。そこで占領に勤しんでいたア...
&ref(ケンブリッジの戦い.png);
ヨルヴィクの占領を済ませて悠々と南下する敵本隊……その数...
ここでも軍団長を務めていたトステは大慌てで退却を指示。...
しかし……
&ref(トティル降伏.png);
スカンジナヴィア軍がブリテン島を離れて再編成を試みてい...
トティルに残された領地はサフォークのみとなり、ノルド勢...
**ジハードの時代 [#q573ad6f]
時間を少しだけ遡って、982年の3月。イスラム世界で大きな...
&ref(ジハード時代.png);
アラビア帝国のカリフ、ナジブが「ジハードの時代の到来」...
&ref(征服者ナジブ.png);
この"征服者"ナジブなる人物の来歴は謎に包まれている((い...
頽廃著しかったアッバース朝を打ち倒して一代にしてカリフ...
アラビア帝国の北には正教会の支配するビザンツ帝国があり...
実際に戦端が開かれるのはまだ先の事になるが、カリフの号...
本稿はフローニ家と北欧を中心に中世世界を紹介するもので...
しかし、大宗教同士の全面戦争時代の火蓋を切って落とした...
**ノルドの聖戦 [#rdc2482b]
一方の北方では、実際に聖戦の戦端が開かれていた。
&ref(初聖戦.png);
聖戦を宣言したのはスウェーデン王・シグルド2世、標的はイ...
つまり、ノルドによる聖戦の宣言が初めて行われたのである。
&ref(Sigrud.png);「我らが兄弟であったザクセンの氏族を滅ぼ...
&ref(Sigrud.png);「&ruby(イルミンスル){世界の柱};を伐り、...
&ref(Sigrud.png);「&ruby(ヘル・フィルケ){盟約の軍勢};はそ...
&ref(Sigrud.png);「その後に骨の一欠けらでも残るよう、古き...
983年2月末頃。東フランクは若干15歳の女王・マリアと、そ...
それは前王オットーが西フランクの仕掛けたデジュリ戦争で...
一方のスウェーデンはアスビョルンの呼び寄せた軍団を使っ...
&ref(カソリックライジング.png);
しかし、その動員を邪魔する様に、スカンジナヴィア領であ...
その間にブルゴーニュ軍の援軍が到着……とはいえ、この頃の...
&ref(ブリュンシュヴィックWARS.png);
練度差も有り、スウェーデンは難なく両軍を制圧。占領を進...
983年8月。暴動の鎮圧も順調に進みつつあり、一先ずの安心...
&ref(東アングリア要求.png);
イングランドが東アングリアへの聖戦を宣言。トティル残酷...
老体を気力で保たせていたカルルが最後に放った勅令は、こ...
*幕間「再会」 [#tdcc63a8]
&ref(Karl.png);「間に、合わんだろうな……」
ホーセンス城。城下からは&ruby(ユール・ラーグ){冬至の歌}...
しかし、カルルは玉座に背を預けながら、深く溜息を吐いた。
&ref(Freyr.png);「はい、『聖戦』及び国内カソリックの鎮圧...
&ref(Freyr.png);「前回のブリタニエでの戦いから考えて敵兵...
フレイが率直に応える。絶体絶命の義弟を見過ごす訳にも行...
ブリタニエを恐怖に陥れた大異教軍は最早見る影もなく、彼...
そして、ラグナル・ロズブロークの子らは&ruby(フュード){...
&ref(Karl.png);「……時間。時間か……余りにも侭ならん。愛しい...
&ref(Karl.png);「だが……お陰で、ただ一つだけは」
&ref(Freyr.png);「はい、ただ一つ、父上は間に合わせられた」
カルルは目を瞑じた。この一事について示し合わせる為に、...
&ref(Freyr.png);「楽しまれましたか。父上」
&ref(Karl.png);「……すまんな、長居をし過ぎた。お前の分が残...
&ref(Freyr.png);「私よりも、母上に深く謝られるべきです」
&ref(Karl.png);「そうだな…………」
火の間に炭の割れる音が小さく響く。
人々が冬至祭を慶ぶのが聴こえる。
&ref(Freyr.png);「…………」
フレイは暫くそれに耳を澄ませていた。
とても静かだった。
足音がした。それが誰のものかはフレイには判らなかったが...
フレイは&ruby(ことば){詞};を発する。
&ref(Freyr.png);「……&ruby(ヤルル){大族長};達を召喚する」
&ref(Freyr.png);「これは、勅令である」
* * *
&ref(Karl2.png);「………………」
&ref(Karl3.png);「…………」
&ref(Karl4.png);「……」
&ref(Linda2.png);「……」
&ref(Karl4.png);「リンダ……」
&ref(Linda.png);「……御慶び申し上げます、私のカルル」
&ref(Linda.png);「貴方は再び、私を手に入れたのですね」
&ref(Karl4.png);「ああ……待たせて、すまなかった」
この抱擁が仮に今際の際に見る長い幻であっても
「この幻の為に生きて死んだ」と断言できる。
冬は終わりつつあった。
*983年12月26日 盟主カルル、崩御。 [#i6036aad]
&ref(カルル.png);
アンラウフ王から継承したスカンジナヴィアの帝国化という...
また、その後数週間で後を追う様にして、皇后シフも崩御し...
時は10世紀末。欧州が「中世盛期」と呼ばれる時代に入る頃。
この人物がいなければ、間もなくヨーロッパ中を混沌と化さ...
ノルドは、その絶望的な戦いの直前に古き神々を取り戻し、...
&ref(マップ.png);
983年末頃のスカンジナヴィア帝国及びスウェーデン王国の版...
|[[AAR/フレイヤの末裔/盟主フレイ]]に続く…………気配がする。|
終了行:
[[AAR/フレイヤの末裔]]
[[AAR/フレイヤの末裔/カルル帝(後編)]]
**幕間「天才」 [#wd5eb1c0]
'''私は特にチェスが好みだが'''
'''九つの特技を身に付けている'''
'''私に解らぬルーン文字は殆どなく'''
'''読書と工芸もよく行い'''
'''スキーの滑り方も知っている'''
'''射撃と航海の術にも長け'''
'''詩作とハープの演奏も心得ている'''
'''――『オークニー諸島人のサガ』のうち『男の特技』。'''
&ref(Inga.png);「猊下、失礼致します」
&ref(Astrid.png);「失礼いたします」
書斎の静寂に、二つの声が響く。一つは若い女のもの、もう...
ルーン文字の資料を改めていたカルルはその二人……インガと...
&ref(Karl.png);「おお、お前達か。熱心だな」
&ref(Inga.png);「猊下ほどでは御座いません。石碑の建立も大...
カルルの書斎には全欧州から集められた知識が整理・収蔵さ...
インガは聳え立つ書架の幾つかに帯出物を返納しながら、次...
&ref(Karl.png);「そうもいかんよ。わしに残されている時間は...
&ref(Karl.png);「特に石碑については、もう腕の良い職人も随...
&ref(Inga.png);「寿命の心配をなさるなら余計に無茶をなさら...
&ref(Karl.png);「ああ、トステに誘われてな。何でも攫って来...
カルルは手綱を握る様なジェスチャーをして身体を上下に揺...
&ref(Karl.png);「しかし南方の馬はやはりすごいな、背も高い...
&ref(Karl.png);「そして何より良く跳ねる。時々宙を舞う様に...
インガは溜息を吐きながら「そう仰るなら」と諦め顔だ。
すると、インガの抜き出した本を眺めていたアストリドが、...
&ref(Astrid.png);「&ruby(ハイル){陛下};……」
&ref(Inga.png);「&ruby(ヘリグ){猊下};、よ、アストリド。無...
&ref(Astrid.png);「……ごめんなさい。&ruby(ヘリグ・フィルキ...
&ref(Karl.png);「何かね?」
インガに訂正を促され、たどたどしくも従うアストリドを微...
アストリドは壁を為す膨大な蔵書を眺め、訊ねる。
&ref(Astrid.png);「ここのご本は、全て盟主猊下の読まれたも...
インガが苦笑を深める。幼さ故か、或いは"豪胆王"と呼ばれ...
&ref(Inga.png);「猊下、申し訳ありません。私の教育が……」
&ref(Karl.png);「良い良い。盟主座の歴史も丁度10年、言うな...
謝罪するインガを制止して、カルルはアストリドの質問に答...
&ref(Karl.png);「その通りだよ。40年程かかったし、ここ数年...
&ref(Astrid.png);「すごい! それほどの勉強家だから&ruby(...
カルルは目を細めて肯く。その通り、その通りに違いなかっ...
あの聡明な妻に相応しい男になる為に、愛した女の名誉を自...
勿論、カルルの中にも民を思う心があって、それも強い動機...
その恋が、戴冠の時には「実質の王配」と嘲られたカルルを...
&ref(Astrid.png);「わたしもいっぱい勉強をして、立派にホル...
&ref(Karl.png);「ああ、きっとそうなるだろう。何と言っても...
そう言うと、アストリドもどこか誇らしげだ。インガの教育...
&ref(Inga.png);「アストリド、余り御邪魔をしないのよ。猊下...
インガは資料を選び終えたらしく、アストリドに退室を促す...
&ref(Inga.png);「御邪魔致しました、猊下。改めて、御自愛な...
&ref(Astrid.png);「お邪魔いたしました、猊下」
&ref(Karl.png);「ここはお前達に解放されている。必要なもの...
退去する二人を見ながら、カルルはふと、時の流れを思う。
&ref(Karl.png);(……40年か。滑稽なほど長い……)
欧州中から蒐集される文書の理解と整理。40年、覇業の傍ら...
その営為の積み重ねが有って、スカンディアは帝国として統...
反動を起こす者達は今もあるが、カルルの存在がノルド世界...
しかし、カルルは自らの非才を笑わずにはいられなかった。
&ref(Karl.png);(俺と、フレイの存在は……きっとお前の誕生の...
カルルは膨大な未整理の資料が並べられた書架の前に立つ。...
それは、欧州中から集められた膨大な資料の翻訳物。或いは...
それらを見る度に、カルルは思い知らずにはいられない。
何れも同じ筆跡で書かれた、無数の文書が、スカンディアに...
&ref(Karl.png);(インガよ……)
フローニのインガ。
インガ・フレイドティール。
スカンジナヴィア帝国第一継承候補者・フレイの次女、イン...
&ruby(インガ){フレイヤの化身};。
&ref(Karl.png);(俺とフレイは、必ずお前を帝位に就かせてみ...
&ref(Karl.png);(たとえ、どんな手段を用いても、誰に恨まれ...
*盟主カルル(完結編)6.19.969~ [#x90fe7b0]
**名君への道 [#q3354834]
&ref(ルーン建立.png);
カルルが自ら碑文を指示したアンラウフ王のルーン石碑。
カルルは、父・アンラウフが手中に収めた領土に胡坐をかい...
彼はその地位に相応しい人物であろうと、「リンダの口付け...
&ref(27歳.png); &ref(57歳.png);
「フローニ家のサガ」によれば、戴冠当時のカルルは短気な...
しかし、盟主カルルに送られた無数の賞賛は、彼をルーンの...
カルルの物語は覇業だけでなく、その能力を伸ばし続ける努...
&ref(訓練①.png); &ref(訓練②.png); &ref(訓練③.png);
ある時は戦士達に混ざって武力を磨き、またある時は戦術の...
&ref(訓練④.png); &ref(訓練⑤.png);
果ては鳥の飛ぶ姿をヒントに「海だけでなく空をも征服でき...
謎めいた賢者に与えられた「秘密の書物」の解読の為に数週...
&ref(訓練⑥.png);
そのうちのどれ程が実話なのかは解らないが、盟主の座に就...
ヴァイキングは&ruby(ヤルル){族長};に「九つの能力」を求...
カルルが&ruby(フィルキル){盟主};としての崇敬を受けたの...
**ノルド世界の「中世化」。 [#z100c917]
本稿の読者には改めて言うまでもない事とは承知だが、10世...
崩壊した西ローマの領域を得たゲルマン人達が、キリスト教...
&ref(王権強化.png);
盟主座の制定と共に提案された帝国体制は帝権の大幅な強化...
つまり、キリスト教世界と同様の、しかしフィルキリズムに...
&ref(ヴァーンの乱.png);
これに対しては国内のキリスト教徒よりも、「反盟主座」の...
長期に亘る統治、帝国化の完遂、そしてガヌエンタの発掘と...
970年に起こった「ヴァーンの乱」はそうして起こった宗教的...
&ref(Vagn.png);「&ruby(ケーザリ){皇帝};、フローニのカルル...
&ref(Vagn.png);「人である限り如何なる人も神意を騙るは赦さ...
&ref(Vagn.png);「仮にフローニが半神の系譜であろうとあって...
&ref(Karl.png);「考えるのだ、賢きヴァーン。我が氏族の祖・...
&ref(Karl.png);「ただ神々を見上げるだけの時代は、我が盟約...
&ref(Karl.png);「我はノルドの迎える長き冬を終わらせよう。...
&ref(Vagn.png);「まやかすな! 祖父は我らに言い伝えたぞ、...
&ref(Karl.png);「……ヴァーンよ、では、お前の人々を勇敢に戦...
この乱は数ヶ月の内に鎮圧され、捕えられたヴァーンは後に...
加えて、同時期にスウェーデンのアスビョルン王がカルルの...
&ref(アスビョルン暗殺.png);
これによってシグルド2世が再びスウェーデン王冠を継承した。
&ref(シグルド2世.png);
高齢ではあるが、嘗ても名君として知られたシグルド2世は、...
以降、シグルドはフローニ本家と積極的な交流を行い、スウ...
カルルは犠牲祭でヴァーンやアスビョルンといった叛逆者の...
これが抑止力となったのか、カルル存命の内に起こった「反...
&ref(王権強化完了.png);
そして972年の11月、ついに帝国内の族長の過半数が新帝国法...
こうして、ノルド世界の「中世化」が始まったのである。
**賢きヴァニル、インガ。 [#z32523f9]
974年、3月。帝国内安定に注力し、兵力を温存していたカル...
&ref(トティルの要請.png);
カルルの義弟・トティルの援軍要請であった。「第二次・大...
しかし……
&ref(Karl.png);「我が義弟、大鴉旗の継承者、ヨルヴィクの残...
&ref(Karl.png);「だが、汝はそれに報いたか。我が戦士達の流...
&ref(Karl.png);「ヴィットセルクのトティルよ、我は『全ての...
カルルは、今度は一兵たりと援軍を出さなかったのである。
この返信を、トティルは大笑で受け取ったという。
&ref(Totil.png);「我が義兄にして盟主なる"鉄心の"カルルよ...
&ref(Totil.png);「確かに兵は出せまい! スカンディアのあ...
&ref(Totil.png);「その少女に全てを与えたいのだろう!? ...
カルルには兵を動かさない理由があった。
&ref(インガ.png);
皇太子フレイの次女であり、「ステンボックのリンダ、スヴ...
この頃、フレイには三人の娘がおり(長女は前稿で登場した...
彼女は伝説によれば成人までにノルド語、英語、フランク語...
カルルとフレイは、彼女を玉座に就かせるべく、新たな相続...
それは当然、帝国内に戦争状態の氏族が残っていては達成で...
&ref(Totil.png);「楽ではないなあ、&ruby(ヘリグ・フィルキ...
&ref(Totil.png);「だが言っておくぞ義兄殿! 貴方はまだキ...
&ref(Totil.png);「このブリタニエで何が起ころうとしている...
その1年後、975年の4月にトティルはケントを喪失。
そして同年の5月末……
&ref(選挙制.png);
大族長達による選挙制相続法を成立させたのである。
この相続法は「優れたノルドによる支配」を理念とし、皇子...
カルルは自分の持つ全王号と盟主座の継承候補者に長男・フ...
しかし、フローニ氏族内ではこれを「氏族を畏れぬ悪法」と...
カルルは偉大な皇帝であり盟主ではあったかも知れないが、...
**幼きリューリクの末裔 [#ydb7aba6]
新相続法の制定から暫く、カルルはトステ率いる略奪部隊を...
スウェーデンの再統一はカルルとシグルド2世の親密さから再...
そこで、カルルが次に目を付けたのが、スラヴ化したホルム...
&ref(ホルムガルド.png);
カルルの伯母・リンダの夫は、嘗てロシア最強を誇った&ruby...
977年1月上旬、カルルはその請求権を行使したのである。
&ref(プスコフの戦い.png); &ref(ルーガの戦い.png);
カルルは東方に常備軍4000名のみを差し向けた。ロシア奥地...
そして980年11月中旬、ホルムガルドは降伏を宣言。
&ref(ホルムガルド降伏.png);
カルルはその名義人……つまり、ホルムガルド大族長である人...
&ref(アストリド.png);
ニュガルドの玉座についていたのは、僅か8歳の少女だったの...
カルルが宣戦を布告した彼女の父・ステュルカルは終戦間近...
使者の弁では、アストリドは少女でありながら族長として強...
&ref(Karl.png);「エーシルとヴァニルから離れるとも、幼きリ...
カルルはアストリドをユランに呼び寄せ、インガにノルドと...
ホルムガルドの大族長位はカルルが預かり、彼女の成人と共...
**大きすぎる釣り針 [#ofb070ab]
ホルムガルドを獲得したカルルは、東方に送った部隊をその...
そんな折に、ブリテン島のトティルから再びの援軍要請があ...
&ref(オスムンド.png); &ref(イングランドの成立.png);
マーシアの寛大公・ブルグレッドの子孫であるオスムンド2世...
しかも、イングランド王・オスムンド2世と、アルバ王・カイ...
所で、この「イングランド」という国名は、デーン人……とい...
イングランドの民族がアングロ・サクソン人である事、そし...
&ref(アンゲルン.png);
ユラン半島から緩やかにバルト海に突き出た小半島、「&ruby...
実際にはそのアンゲルンに棲んでいたアングル人だけでなく...
&ref(Totil.png);「言っただろう? 手遅れになっても知らね...
トティル王にはこれが愉快でならず、ホーセンスに送った使...
この挑発に乗らないノルド人など、この時代には考えられな...
981年4月、ウラジミールとモスクワの獲得に成功したカルル...
&ref(エリーの戦い.png);
982年4月、サフォークに上陸。そこで占領に勤しんでいたア...
&ref(ケンブリッジの戦い.png);
ヨルヴィクの占領を済ませて悠々と南下する敵本隊……その数...
ここでも軍団長を務めていたトステは大慌てで退却を指示。...
しかし……
&ref(トティル降伏.png);
スカンジナヴィア軍がブリテン島を離れて再編成を試みてい...
トティルに残された領地はサフォークのみとなり、ノルド勢...
**ジハードの時代 [#q573ad6f]
時間を少しだけ遡って、982年の3月。イスラム世界で大きな...
&ref(ジハード時代.png);
アラビア帝国のカリフ、ナジブが「ジハードの時代の到来」...
&ref(征服者ナジブ.png);
この"征服者"ナジブなる人物の来歴は謎に包まれている((い...
頽廃著しかったアッバース朝を打ち倒して一代にしてカリフ...
アラビア帝国の北には正教会の支配するビザンツ帝国があり...
実際に戦端が開かれるのはまだ先の事になるが、カリフの号...
本稿はフローニ家と北欧を中心に中世世界を紹介するもので...
しかし、大宗教同士の全面戦争時代の火蓋を切って落とした...
**ノルドの聖戦 [#rdc2482b]
一方の北方では、実際に聖戦の戦端が開かれていた。
&ref(初聖戦.png);
聖戦を宣言したのはスウェーデン王・シグルド2世、標的はイ...
つまり、ノルドによる聖戦の宣言が初めて行われたのである。
&ref(Sigrud.png);「我らが兄弟であったザクセンの氏族を滅ぼ...
&ref(Sigrud.png);「&ruby(イルミンスル){世界の柱};を伐り、...
&ref(Sigrud.png);「&ruby(ヘル・フィルケ){盟約の軍勢};はそ...
&ref(Sigrud.png);「その後に骨の一欠けらでも残るよう、古き...
983年2月末頃。東フランクは若干15歳の女王・マリアと、そ...
それは前王オットーが西フランクの仕掛けたデジュリ戦争で...
一方のスウェーデンはアスビョルンの呼び寄せた軍団を使っ...
&ref(カソリックライジング.png);
しかし、その動員を邪魔する様に、スカンジナヴィア領であ...
その間にブルゴーニュ軍の援軍が到着……とはいえ、この頃の...
&ref(ブリュンシュヴィックWARS.png);
練度差も有り、スウェーデンは難なく両軍を制圧。占領を進...
983年8月。暴動の鎮圧も順調に進みつつあり、一先ずの安心...
&ref(東アングリア要求.png);
イングランドが東アングリアへの聖戦を宣言。トティル残酷...
老体を気力で保たせていたカルルが最後に放った勅令は、こ...
*幕間「再会」 [#tdcc63a8]
&ref(Karl.png);「間に、合わんだろうな……」
ホーセンス城。城下からは&ruby(ユール・ラーグ){冬至の歌}...
しかし、カルルは玉座に背を預けながら、深く溜息を吐いた。
&ref(Freyr.png);「はい、『聖戦』及び国内カソリックの鎮圧...
&ref(Freyr.png);「前回のブリタニエでの戦いから考えて敵兵...
フレイが率直に応える。絶体絶命の義弟を見過ごす訳にも行...
ブリタニエを恐怖に陥れた大異教軍は最早見る影もなく、彼...
そして、ラグナル・ロズブロークの子らは&ruby(フュード){...
&ref(Karl.png);「……時間。時間か……余りにも侭ならん。愛しい...
&ref(Karl.png);「だが……お陰で、ただ一つだけは」
&ref(Freyr.png);「はい、ただ一つ、父上は間に合わせられた」
カルルは目を瞑じた。この一事について示し合わせる為に、...
&ref(Freyr.png);「楽しまれましたか。父上」
&ref(Karl.png);「……すまんな、長居をし過ぎた。お前の分が残...
&ref(Freyr.png);「私よりも、母上に深く謝られるべきです」
&ref(Karl.png);「そうだな…………」
火の間に炭の割れる音が小さく響く。
人々が冬至祭を慶ぶのが聴こえる。
&ref(Freyr.png);「…………」
フレイは暫くそれに耳を澄ませていた。
とても静かだった。
足音がした。それが誰のものかはフレイには判らなかったが...
フレイは&ruby(ことば){詞};を発する。
&ref(Freyr.png);「……&ruby(ヤルル){大族長};達を召喚する」
&ref(Freyr.png);「これは、勅令である」
* * *
&ref(Karl2.png);「………………」
&ref(Karl3.png);「…………」
&ref(Karl4.png);「……」
&ref(Linda2.png);「……」
&ref(Karl4.png);「リンダ……」
&ref(Linda.png);「……御慶び申し上げます、私のカルル」
&ref(Linda.png);「貴方は再び、私を手に入れたのですね」
&ref(Karl4.png);「ああ……待たせて、すまなかった」
この抱擁が仮に今際の際に見る長い幻であっても
「この幻の為に生きて死んだ」と断言できる。
冬は終わりつつあった。
*983年12月26日 盟主カルル、崩御。 [#i6036aad]
&ref(カルル.png);
アンラウフ王から継承したスカンジナヴィアの帝国化という...
また、その後数週間で後を追う様にして、皇后シフも崩御し...
時は10世紀末。欧州が「中世盛期」と呼ばれる時代に入る頃。
この人物がいなければ、間もなくヨーロッパ中を混沌と化さ...
ノルドは、その絶望的な戦いの直前に古き神々を取り戻し、...
&ref(マップ.png);
983年末頃のスカンジナヴィア帝国及びスウェーデン王国の版...
|[[AAR/フレイヤの末裔/盟主フレイ]]に続く…………気配がする。|
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