私が親父の後を継いだ時、私はすでに40歳であった。私はこの歳まで部屋積み生活を強いられた。親父は長生きしすぎたのだ。 え?後継者なんだから仕方ないって?冗談じゃない。 私といくばくも歳の違わないいとこたちが領主として立派に務め上げているのをただただ黙って見ていることしかできなかった気持ちがわかるか!? 「私にも父の仕事を手伝わせてくれ。」思い切ってそう願い出た私に、「お前の仕事は子を作ることだ。」と憮然と言い放った親父をどのくらい恨んだかお前たちに理解できるか!? ようやく私の時代が来たのだ。これからは私の好きにさせてもらうぞ。
これが私。親父に比べればとても優秀だろう。
ところがだ。親父は死の直前に遺言を残していたらしい。 「当面は4者の合議で物事を決めるように」 だと!?ふざけるな!親父はどれだけ私のことを舐めているというのだ!!私1人では政務をこなすことはできないとでもいうのか!? 全く腹立たしい。ちなみに4者とは公爵である私と公爵領の3人の有力者のことを指す。
まず、我が叔父ウェルナー。
ネウチャテル伯ウェルナー。ネウチャテル・ハプスブルグ家の祖。
ネウチャテルの伯爵にして公爵領の宰相を務める。かつては親父に楯突いたこともある気骨の持ち主らしいが、今ではすっかり毒気を抜かれた好々爺だ。
次に、もう1人の叔父ゲルパルト。
初代ウェルナーの私生児であり密偵頭。
親父やウェルナー叔父とは母の違う私生児だという。早くから教会にて主に仕えるように育てられてきたらしい。今では公爵領の密偵頭を務めている。正直、私はこの叔父が不気味だ。何を考えているのか全然わからない。
最後に、我がいとこルドルフ。
リュゼラン男爵ルドルフ。ワーラムとはライバル関係にある。
公爵領の元帥を務め、兵権を握る男。幼い時から私とは犬猿の仲だ。
ちなみに公爵領の有力者としては他にもジュネーブ伯である弟のポッポやデジョン伯であるいとこのヒューポルドがいるが、彼らはまだ若年であるため合議には列する資格がない。 上述の3にんに私を加えた「4頭体制」によって上ブルグンド公爵領の方針は決められるのだ。
「さて、今回は皇帝の教皇への宣戦に関して我が家の取るべき選択について話し合いたい。」 私の1言によっていつも合議は始まる。 「私は祖父や父の代と同様に皇帝支持の立場でいきたいと思う。」 まずは私が自分の考えを述べるのが合議のお決まりだ。 「皇帝はいささか横暴になりつつある。ワーラムよ、ここは教皇猊下を支持して皇帝の増長に歯止めをかけるようにすべきでは?」 そう言って私の考えに異議を唱えるのは決まっていとこのルドルフだ。 「貴様は何も将来のことを考えていない。劣勢の教皇についても我々に未来がないのは明白だ。」 「そんなことはない。」 「ルドルフよ、貴様は単に私に反対したいだけだろう!」 「そんなことはない。」 このようにいつも私とルドルフは言い争いになる。 「まあまあ、2人とも落ち着きなさい。」 そう言ってウェルナー叔父がいつも私たちの仲裁に入る。 「ウェルナー叔父上はどうお考えか?」 すかさず私はウェルナー叔父に尋ねる。すると、決まって叔父はこう答える。 「そうあわてて決めずとも、もう少し慎重に様子を見てそれから判断するのが良いのではないか?」 ウェルナー叔父は完全に親父に毒を抜かれている。慎重とは聞こえがいいが、保身的なのだ。 親父への反乱に敗れて以来、極度に地位を失うことに恐れを抱くようになったらしい。だからこのような意見しか言わない。 「ゲルパルト叔父上はいかがですか?」 いつもきまって最後に意見を言うのがゲルパルト叔父だ。ここまでのやり取りをただただ黙って見つめるゲルパルト叔父の姿にはいつも気味悪さを覚える。 「我々は帝国に属する。帝国諸侯であれば皇帝を支持するのが道理というものだ。」 そして、いつもゲルパルト叔父の一言ですべてが決まるのであった。 「それもそうですな。このルドルフ、異存はございません。」 さっきまで反対していたくせにどの面さげてほざくのか。 「わしもゲルパルトの言うことが正しいと思う。」 ウェルナー叔父よ、あなたに自分の意見というものが果たしてあるのですか? このように、今回の合議でもゲルパルト叔父の鶴の一声で、我がハプスブルグ家は皇帝支持に決定したのであった。 ただしかし、ゲルパルト叔父が最後に付け加えた一言についてはその場にいた誰も触れなかった。 「帝国諸侯であれば皇帝を支持するのが道理というものだ。もっとも、今後も帝国諸侯であり続けるのであればの話だがな。」
1135年8月。私は聖地エルサレムへの巡礼を行うことを決意した。 もともと私は熱心な信仰者である。前々から巡礼をしたいという思いが強かったのだが、ついに思いが実現したのだ。 「長旅だ。命懸けのものになるだろう。当主がこのような軽率な行動をとるなど認められん!」 珍しくウェルナー叔父が怒気をあらわに諫めてきた。 「ワーラムにも並々ならぬ覚悟があっての決断だと思います。今回ばかりは私は反対しませんよ。」 ルドルフも珍しく私の考えに賛意を表した。まあ、旅途中で死ぬことを望んでの賛成なのだろうが。 ゲルパルト叔父の発言が待たれた。皆の視線を感じてか、ゲルパルト叔父は重い口を開いた。 「ワーラムの好きにすればよい。」 この一言で私の聖地巡礼が決定した。
それから1月後。私は遂に聖地エルサレムに向けて旅立った。私が留守の間はゲルパルト叔父が代わりに政務を執り行うこととなった。 道中、本当に色々なことがあった。ここでは割愛するが、まさに命懸けの旅になったのだ。 だからこそ、エルサレムの地に無事にたどり着いた時の感動は並々ならぬものがあった。
エルサレムは現在アキテーヌ王よりファーティマ朝に奪還され、再びムスリムの土地となっている。彼らは異教徒にも寛容だ。 そのため、様々な宗教の司祭がこの地では活動を行っていた。 私はこのような様々なこと寛容なイスラム教の姿に深い感銘を覚え、教会の司祭どもが言っているほど悪い連中ではないのではと考えるようになった。
イスラム教にシンパシーを感じる。
もともと、強い信仰の気持ちからエルサレムに出向いてきたはずなのに、全く皮肉なものだ。
1139年末。ゲルパルト叔父が突然この世を去った。享年64。 近頃はすっかり老いて、合議の場に出向くのも難儀するという状態だった。老衰死であるという。
公爵領最大の権力者の死。
「ゲルパルトが死んだのなら、合議はワシが重きを成していかねばな」 そう言って得意気に笑っていたウェルナー叔父もそれから2年余り後に69歳でこの世を去った。
世代交代は確実に訪れていた。 2人の叔父の代わりに、新たに弟のジュネーブ伯ポッポとウェルナー叔父の後を継いだネウチャテル伯ベルソルドが合議入りしたが、この2人は私を全面的に支持していた。 私の宿敵である元帥ルドルフは今だ健在なものの、世代交代により彼の発言力は大きく低下しており、事実上私の親政が始まったのだ。
帝国においても世代交代の時期が訪れていた。 1143年9月。「道楽帝」ハインリヒ4世がこの世を去り、次男のハインリヒがハインリヒ5世として新たに即位した。
新帝。なかなかの武闘派。
新帝とは互いを認めあった親友関係であり、これにより帝国での私の地位もより盤石なものとなったのだ。
1138年のこと。私はシチリア王弟フレリーを我が宮廷に招き入れ、孫娘に婿入りさせた。
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また、シチリア王の末妹を我が嫡男オットーのもとに嫁がせていた。 この時期、子のいないシチリア王の後継者候補筆頭は弟フレリーであり、シチリア王冠をあわよくばハプスブルグ家が手にしたいという思惑があっての行動だった。
それから13年後。我が孫娘は子を残すことなくこの世を去った。 これにより、ハプスブルグの血族がシチリア王になる可能性がほぼ潰えてしまったのだ。 どうしてもシチリア王位をハプスブルグのものにしたい。私は非情な手段に出た。
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1151年10月。シチリア王弟フレリーは妻である我が孫娘を殺害したという嫌疑をかけられ逮捕、その日のうちに処刑された。 全くの事実無根の濡れ衣であった。 フレリーの死により、今だ子のないシチリア王の後継者にはセルビア人男爵の元に嫁いだ姉の息子となった。
子を残すことなく孫娘が世を去ったことで計画の狂った私は、我が嫡男オットーの嫁、シチリア王の末妹を新たにシチリア王位に就けようと考えた。 そのために、上述のフレリーの処刑をはじめとした様々な謀略に手を染めた。
1153年に始まったカプア戦争もその一貫であった。
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上ブルグンドからカプアは正直遠い。陰謀を行う策源地はもう少し近くに必要だ。 そのため、シチリア王国に隣接する、弱小伯爵の治めていたカプアの請求権を捏造して奪取したのだ。
カプアを拠点に、私は密偵頭に新たな陰謀を指示した。 それは、現シチリア王の暗殺であった。
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シチリア国内を探ってみたところ、驚くことに多くの有力者が王暗殺に賛同してきた。 シチリア王はこんなにも嫌われていたのか・・・。私は憐れみすら覚えた。
「陰謀は成功しました。シチリア王暗殺の黒幕が殿であることはバレておりません。」 密偵頭より報告が来た。これで、新シチリア王にはセルビア人正教徒が就いたわけだ。国内での不満は当然大きいだろう。容易に新王も暗殺できるはずだ。 後はこの新王も暗殺して、幼い娘が即位したところに、息子の嫁を旗印にシチリアへ攻め込むだけだ。 笑いが止まらなかった。
シチリア王暗殺の報告が届いた翌朝。その日、私は立ち上がることができなかった。言葉もう失った。 私は無能力者になってしまったのだ。 これも、天罰だろうか。
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まさかこんなことになるとは・・・。
摂政には嫡男オットーが就いた。 「父上、安心されよ。父上の悲願はそれがしが果たしますぞ。」 オットーは何もしゃべれずベッドに横たわる私にそう約束した。 事実、シチリアの新王はその直後に不審死を遂げている。想定通り新シチリア王にはその娘が即位した。 今こそ、シチリアに攻め込むべきではないか。そう言いたいが、私は何も発することができない。 オットーもこの好機に全然動こうとはしない。 実は、この時オットーは宮廷での権力闘争の最中にありそれどころではなかったのだ。
さかのぼること数年前、カプアとの戦が始まったばかりのこと。 長年連れ添った妻が病死し、私は後妻として皇帝の娘、コチルダを迎えていた。
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コチルダは非常に頭の良い女で、宮廷の人間もすぐに彼女の虜いなっていた。 そして、具合の悪いことに、この女は野心も非常に高かった。
オットーが権力闘争をしていた相手もコチルダだった。宮廷内で強い支持を集め、実家ザーリア家の威光を利用したコチルダはこの権力闘争に勝利し、オットーより摂政の地位を奪い取った。
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コチルダの野心は留まるところを知らない。コチルダは摂政の地位を利用し、シチリアへの重要な策源地カプアを自らのものにしたのだ。
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何ということだろうか・・・。
「父上、お待たせしました。」 私の寝所にオットーがそう言って現れた。 「コチルダがカプアの視察に赴いている間に、宮廷に残る者たちの賛同を得て、私が再び摂政となりました。」 私はそうかとうなずく。 「すでに逆賊コチルダを討伐する軍を編成済みです。父上、これはコチルダよりカプアを没収する命令書です。ここにサインをしてください。」 私は震える手でサインする。 「それでは、行ってまいりまする。」
「もう父上も長くはないだろう。」 オットーは私の寝所から出ると、そうつぶやきニヤニヤと笑った。 「コチルダは問題はあれども、法的には正当な手段でカプアを得た。それを取り上げることは、こちらも痛手を被ることにもつながる。」 オットーは私のサインした命令書を高らかと掲げる。 「この命令書により、世間からの不評は父上が全て受けてくださる。私に何の損害もない!」
コチルダ討伐の軍がオットーに率いられて出発した次の日、私は胸に強い痛みを感じた。 おーい誰かいないのか。私は声にならない悲鳴をあげる。 しかし、誰も駆けつける者はいない。
1161年7月。3代目上ブルグンド公爵ワーラム・ハプスブルグは寂しくこの世を去った。 享年70。不遇な晩年から死後「不注意公」と称された。嫡男オットーが後を継いだ。
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